【書評】「フィールドワークの技法(佐藤郁也)」はエスノグラファーを目指すなら最初に読むべき1冊
こんにちは!
社会人ドクターとして仕事に、研究に四苦八苦しているコージコーダイ(@kodai_chi_koji)です。
今日は、痺れるほど勉強になった本をレビューします。
私自身、駆け出しの研究者ですので、研究が進んだ後にもう一度レビューの内容については見直して書き直す予定をしております。
今回取り上げるのは、佐藤郁也氏の「フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる」です。
この本をぜひ読んでほしい人と、そのポイントを先に挙げておきますね。
・新聞記者のように現地取材を行おうとする人
・フィールドワークのイメージが付かない人
・調査を始めたけどうまくいかない人
・ノウハウ本にありがちなサクセスストーリーではなく、筆者自らの研究者として成長する過程における失敗談が惜しみなく記述されている
・読み物としても純粋に面白い!
目次
なぜこの本を手に取ったか
指導教員から、質的研究をするなら手始めに「佐藤郁也氏の本」を読むように伝えられていて、最初は入門書として高い評価がされている「フィールドワーク―書を持って街へ出よう (ワードマップ)」を読んでいました。しかし、実際に現場に入ると分からないことがたくさん発生してきて、より分厚い記述がされているものが読みたくなったからです。
また、質的調査と呼ばれる手法について調べれば調べるほど、国内においてこの分野における佐藤郁也氏の存在の大きさに気付かされたことも本書を手に取った大きな理由です。
著者、佐藤郁也氏について
社会学的エスノグラフィーの第一人者。
東京大学を卒業後、東北大学の大学院に進学、最終的にはシカゴ大学の社会学部で博士号を取得しています。
博士論文でもある「暴走族」についての論文、著書や「現代演劇」についての長期間にわたる参与観察で特に知られています。
何が書いてあるのか
フィールドワークについての実践的な手引き書です。
ただ、使い方としては著者自身が書いてあるように、ざっと目を通したら「まずは自分がフィールドワークをする」ことが必要だと感じました。
これは私の場合ですが、さらっと本書を読んで分かった気分になって実際にインフォーマルなインタビューを行ってみて初めてその難しさを身をもって実感させられました。
ですので、一度目を通したら本を閉じて、フィールドに繰り出すことをオススメします。
そして、困ったらまた本書をひらけば、多くのヒントが得られます。
フィールドに出てから再びページを開くと最初に読んでいた時には、響かなかった内容が驚くほど実感を伴って理解ができます。
特に、筆者や筆者が師と仰ぐ人々の「失敗談」から学ぶ部分が多いです。
実際にフィールドで調査を行って失敗をしたら、「213ページ」を読みましょう。
私は、このページを見てなぜ自分のフィールドノーツが全然ダメなのかがすっきりと理解できました。
端的に言うと、「現場でとるメモ」「それをベースに作成するフィールドノーツ」「研究の途中で作成する中間報告書」「そして最後に仕上げるエスノグラフィー」のそれぞれが、何を目的にして、また誰が読むために作成するのかが明確ではないから「あまり使い物にならないもの」になってしまうんです。
非常に専門的な色合いが強いものにも関わらず、小説を読んでいるかのようにその記述の面白さに引き込まれます。
おそらく、それは本書が佐藤郁也氏の研究史的な色合いが濃く、またエスノグラフィーそのものがそうであるように、文学的な色合いが見え隠れするからだと思います。
とにかく、本書を読むと質的研究者として歩んでいく上での困難となるであろうこと、また面白さなど、筆者の研究者としての失敗も成功も追体験させてもらうことができます。
つまり、私のように、専門外なのに突然博士から社会調査をすることになった人、急に現場に送り込まれて取材やそれに似たようなことをする必要がある人などにとっては、自分の将来像が描きやすくなるので、特にオススメします。
次に読むべき本
社会調査について学ぶための決定版と名高い、同じく佐藤郁也氏の書いた「社会調査の考え方 上」「社会調査の考え方 下」の2冊をオススメします。
こちらについても後日レビューを書く予定です。